環境問題への取り組み

明治の中頃、九代濱口吉右衞門(容所)は、植林事業が国家百年の計に大切な事を説いて自ら郷里の和歌山で植林事業を始めました。 この時代の森林は、経済成長を支える材として、また生活環境を守る為の治山治水としての役割が重要だったと思われます。

それから百年、新たな環境問題として地球温暖化がクローズアップされてきました。これは二酸化炭素(CO2)が主な原因だと考えられています。森林はこのCO2を吸収して大きく育ちます。日本の国土の約66%を占める森林ですが、木材価格の低下が続き経営意欲が失われ、間伐(樹木の一部を伐採して残存木の成長を促進する作業)などの手入れがされない森林が急増しています。これらの陽も差し込まない暗い森林は成長が止まりCO2を吸収しなくなり、また治山治水にも悪影響を及ぼします。

平成21年環境省はCO2などの温室効果ガスの排出削減・吸収量をカーボン・オフセットに用いられるクレジットとして認証する「オフセット・クレジット(J-VER)制度」に森林管理プロジェクトを追加しました。これは間伐などの森林の手入れを行い、成長を促し、より多くのCO2を吸収した増加分に対してクレジットが発行されるものです。

また、その審査は厳しく、一定の基準を満たした信頼性の高いクレジットのみ認証されます。 2010年12月当社の森林が、この「オフセット・クレジット(J-VER)制度」の登録に認証されました。 人も動物もみんながしあわせに暮らせるように、「木の国 森づくりシアワセプロジェクト」と名付けました。 次の百年に思いを込めて・・・。

地球温暖化を防ぐためにできること
(カーボン・オフセットとは)

カーボン・オフセットの意義と「J-VER」について

21世紀を間近にした平成9年(1997)、地球温暖化が目前にさし迫った問題として「京都議定書」に取り上げられ、世界各国は将来の地球環境を守るべくさまざまな対策を打ち出しました。
その一つが、カーボン・オフセットです。 カーボン・オフセットは、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出量を減らすための活動で、カーボン(carbon dioxide)は「二酸化炭素」、オフセット(offset)は「埋め合わせをする」を意味します。

つまり、世界各国の国民、企業、自治体などが、日常生活や事業活動によって排出している二酸化炭素などの温室効果ガスの量を数値化し、これを省エネルギー活動によって削減する活動なのです。 事の起こりはイギリスの植林NGO「フューチャーフォレスト」がカーボン・オフセットをスタートした1997年で、この活動をアメリカ、ドイツ、オーストラリアが導入するようになりました。

しかし、個人や小さなグループ、小規模企業のレベルでは、とうてい削減できない排出量を賄わねばなりません。そこで、他の分野や団体が行う省エネルギー活動、クリーンエネルギーの導入、森林整備などを支援し、ここで得られる温室効果ガスの排出削減量や二酸化炭素吸収量を使って、各自が削減できない排出量を埋め合わせるのです。

カーボン・オフセットとは

企業活動や商品製造などによって排出してしまう温室効果ガス排出量のうち、どうしても削減できない量の全部または一部を、他の場所での排出削減・吸収量でオフセット(埋め合わせ) することをいいます。

カーボン・オフセットの流れ

  • 1.温室効果ガス排出量を把握
  • 2.温室効果ガスの削減努力を行う
  • 3.クレジットの購入
  • 4.埋め合わせ(相殺) する

紀の国と呼ばれた和歌山県は、“木の国”であるとも言われます。363,601ヘクタールの大いなる森をめぐる「熊野古道」は、平成16年(2004)にユネスコの世界遺産に登録されました。選ばれた理由は、歴史的な紀伊山地の霊場、参詣道(熊野 古道、大峯奥駈道、高野山町石道)と、深山幽谷を残し続ける手つかずの自然にあります。

紀州の山地は、太平洋の黒潮がもたらす暖かな海風と多量の雨によって、数千種もの樹木を育んでいるのです。 森に棲む動植物や菌類は、やがて樹木の養分となり、さらに地下水となって紀南の海へと下ります。

江戸時代には紀南沿岸のカツオ漁が盛んで、それは、たっぷりと森の養分を含んだ海水のおかげでした。植物性プランクトンを好む動物性プランクトンにイワシなどの小魚が集まり、それを捕食するカツオが群れをなして押し寄せていたのです。いわば、豊かな山と暖かい海の相乗効果によって紀南に与えられた宝物でした。

温暖で多雨な、紀南の森

紀南の山林から伐り出された杉や檜は、徳川御三家である紀州藩の面子をかけた銘木として江戸の町作りに生かされました。筏に組んだ巨大な木材が、廻船に曳航されながら黒潮に乗って遥かな江戸へ運ばれたのです。その繁栄は、木材の商いで巨万の富を築いた紀伊国屋文左衛門にも知るところです。 御大尽「紀文」の愛称で呼ばれた彼ですが、豪奢な江戸暮らしの一方で、国元の紀州には山の保護や森の育成に惜しみなく財を費やしました。

また、熊野の森を愛してやまなかった世界的な学者・南方熊楠は、和歌山市の出身です。

生物学、植物学、細菌学のサンプルを紀州の山懐で採集し、神秘的かつ天恵の森林をいつまでも残すべきだと世界に向けて訴えました。 このような先人たちと同じく、東濱植林㈱は創業者の故郷である紀南の山林を慈しみ、保護・育成に努めてきました。

東濱植林(株)が取り組む、カーボンオフセットとは

東濱植林㈱は、10代目・濱口吉右衛門(無悶)が大正11年(1922)に創業しました。その礎は、近代日本へ向かう激動の明治期に勇躍し、東濱口家へ繁栄をもたらした9代目・吉右衛門(容所)が始めた植林事業にあります。 1900年(明治33年)、9代目・吉右衛門は衆議院議員として政財界に「国家百年の計は、植林事業にあり」と提言し、その模範を示して、故郷である和歌山県有田郡廣村の山林を購入したのです。

当時の規模は、東濱口土地台帳によると下記の通りです。

所在廣、津木 他 約300筆
地目山林
地罪約2,650反(約260ヘクタール)
東濱植林(株)を創業した10代目・濱口吉右衛門(無悶)
杣に生きる、杣師

現在、東濱植林㈱が所有する全国の山林面積は1,000ヘクタール。その広大な山林資源を歴代当主たちが守り継いできました。 現在の12代・吉右衛門(勝久)は、前述の地球温暖化対策の一環であるカーボン・オフセットに着目し、郷里の和歌山県において「木の国 森づくりシアワセプロジェクト」を立ち上げました。

当社では木を植え、育て、採る山を「杣(そま)」と呼びます。その万事を手がけ、後世に技を伝える山の練達者は「杣師(そまし)」として敬い、代々、信頼ときずなを結んでいます。昨今のグローバル化とともに、日本古来の山林資源はなおざりにされつつあります。

現・代表取締役会長の12代・吉右衛門は創業者の意志を見つめ直し、杣に生き、森と語り、木霊を守る杣師の重要性や、循環する山林資源の価値をカーボンオフセット活動によって伝えたいと考えました。

その舞台となったのが、当社が所有する百年ヒノキの森「扇谷」を含む山々です。

百年ヒノキの森で学ぶ、子どもたち

この樹齢百年を越える杣を我々だけで守るのではなく、一人でも多くの方々に体感してもらいながら、ともに未来の紀南の森を育てることがテーマなのです。

例えば、杣師に手入れされた森に各地から子どもたちが集まり、若い檜をノコギリで伐り、その年輪を数え、木の皮を剥ぎ、木片で遊び、さらにリサイクルまで学ぶイベントが、すでにスタートしています。

「木の国 森づくりシアワセプロジェクト」は平成23年(2011)3月にJ-VERに認証を受け、広川町の保有山林での育林活動に4,158t-CO2吸収がクレジット化されました。さらに平成26年(2013)に約3,000t-CO2吸収がクレジット化され、合計約7,000t-CO2吸収が認証を受けました。

プロジェクトを維持するために、当社では森林の地拵え、植付け、下草刈り、木の間引きといった手入れ作業を地道に行っています。結果として森のCO2吸収量が増えるだけでなく、土砂災害や洪水・渇水を防ぎ、地域に安全と活性化をもたらします。また、動植物の生態系や自然環境の維持にも貢献し、子どもたちの未来へ豊かで安心安全な故郷を引き継ぐことが可能となります。

東濱植林(株)は、この「木の国 森づくりシアワセプロジェクト」をオフセット・クレジット(J-VER)の販売につなげ、杣の保護育成を後代の東濱口家の使命として継承してまいります。 皆様のご支援とご賛同を、お願い申し上げます。

大カシ谷の大樫

環境省の東濱植林(株)オフセット・クレジット(J-VER)認証

プロジェクト名東濱植林 広川町 森林管理プロジェクト
~ 木の国 森づくりシアワセプロジェクト ~
適用方法論方法論番号JRAM 002
方法論名称森林経営活動によるCO2吸収量の増大(持続可能な森林経営促進型プロジェクト)に関する方法論 002
プロジェクト番号0055
クレジット認証番号0055001
0055002
クレジット量7,000t-CO2(2008年~2012年)